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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)697号 判決 1961年12月16日

理由

そこで、控訴人の抗弁について審究する。

控訴人は右手形は控訴人において手形上の債務を負担しない約定のもとに交付したものであると主張するけれども、証人の供述中右主張に副う部分はたやすく措信することはできず、被控訴会社において控訴人主張の如く右手形を支払のために呈示しなかつたことも、この事実のみによつては未だ右主張事実を肯認するに足らず、他に右主張事実を認めるに足る確証もなく、却つてその然らざることは前段認定のとおりであるから、控訴人の右抗弁は採用するに由なく、又控訴人は前記満期欄は将来とも補充しない旨の確約があつたのに、被控訴人において勝手に満期記載欄に「昭和三三年九月二〇日」なる日付のゴム印を押捺したものであるから、右は有効な補充とはいえない旨主張するが、満期を補充しない旨の約束があつたことを認むべき何等の証拠もなく、却つて、前記認定事実によれば、本件手形はこれと一括して被控訴会社に交付された前記訴外会社振出の数通の書替手形のうち最も遅く満期日の到来する手形の満期日以後の日付を以て補充すべき旨の暗黙の諒解のもとに振出されたものであることが窺われるから、被控訴人に本件手形の満期補充権がなかつた旨の主張は採用しえない。もつとも右訴外会社振出の手形の満期の到来日は昭和三三年九月二〇日よりも後であつたことが明かであるから、被控訴会社のなした前記補充は合意に違反し、不当補充であるといわなければならないけれども、そのために本件手形が元の満期の記載のない白地手形に引戻されるものと解すべきではなく、右不当補充に拘らず本件手形は満期の記載ある有効手形で、唯控訴人は手形面に記載の満期日に本件手形金支払の義務を負うものではなく、前記合意の日からその支払責任を負うに過ぎないものと解するのが相当であるところ、前記認定の事実によれば、右訴外会社振出の書替手形のうち、最も遅い満期日の記載ある手形といえども遅くとも昭和三三年三月末日までにはこれが満期日の到来していたことが窺われるから、本件手形の満期日が当事者間の合意の日と異り不当に補充されたとしても、未だ控訴人において本件手形金の支払を拒みうる正当な理由とはならない。

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